本検査は検体細胞におけるHER2遺伝子のコピー数を測定することにより、がんの診断、予後予測、抗がん剤治療効果予測をおこなうための補助的検査です。
HER2遺伝子コピー数異常検査の対象がん種と検査意義は下記のとおりです。
尿路上皮がん・前立腺がん
(1)診断補助
これまでの研究で、犬の尿路上皮がん症例の33~35%において、HER2の遺伝子コピー数異常(コピー数の増加, CNA)が見られることが分かっています。コントロール群ではこのような遺伝子コピー数の異常は認められません(表1)。
従来法として
BRAF遺伝子変異検査がありますが、感度が70%程度にとどまるため、本検査と併用することでより精度高く診断をおこなうことができます。
(2)予後予測
尿路上皮がん、前立腺がんにおいて、HER2遺伝子のコピー数異常に加え、BRAF遺伝子変異を同時に持つ症例では、無病生存期間(DFS)が短くなることが示されています(図1)。
HER2遺伝子コピー数異常検査と
BRAF遺伝子変異検査をともに実施し、両陽性であるかを確認することで、尿路上皮がんおよび前立腺がんの診断だけでなく、外科手術(膀胱全摘術)後の予後予測にも役立ちます。
(3)HER2阻害剤ラパチニブ(タイケルブ®)の効果予測
HER2遺伝子コピー数異常の有無が尿路上皮がんのラパチニブによる治療効果と関係があることが分かっています。下図のように、ラパチニブ/ピロキシカム治療を受けた場合においては、HER2遺伝子コピー数異常が認められた症例は、そうでない症例よりも全生存期間(OS)が長くなることが示されています。HER2遺伝子コピー数異常検査はラパチニブによる治療効果を事前に予測するバイオマーカーとしても有用です。
乳腺がん
乳腺がんにおいては、HER2遺伝子コピー数異常が陽性の症例と陰性の症例では、全生存期間に差があることが分かっています。図3のように、HER2遺伝子コピー数異常が陽性の症例では陰性症例に比べ外科手術後の全生存期間が短くなります(中央値はそれぞれ243日と515日)。HER2遺伝子コピー数異常検査で乳腺がんの予後に関する情報を得ることが可能です。検査はパラフィン包埋ブロックから抽出したDNAでも可能ですので、病理組織検査と合わせて実施することが可能です。
検査方法
リアルタイムPCR
*リアルタイムPCR法によるHER2遺伝子コピー数測定については、東京大学・大学院農学生命科学研究科 前田 真吾 助教との共同研究により、デジタルPCRと同等の精度で測定可能であることを確認しています。
*「
BRAF+HER2」のセット検査もございます。
【参考文献】
1) Sakai K., Maeda S., Saeki K., Yoshitake R., Goto-Koshino Y., Nakagawa T., Nishimura R., Yonezawa T., Matsuki N. ErbB2 copy number aberration in canine urothelial carcinoma detected by a digital polymerase chain reaction assay. Vet. Pathol. 57: 56–65 (2020).
2) Maeda S., Sakai K., Kaji K., Iio A., Nakazawa M., Motegi T., Yonezawa T., Momoi Y. Lapatinib as first-line treatment for muscle-invasive urothelial carcinoma in dogs. Sci Rep 12, 4 (2022)
3) Sakai K., Chambers JK., Uchida K., Nakagawa T., Nishimura R., Yonezawa T., Maeda S. ErbB2 copy number gain is associated with adverse outcome in canine mammary carcinoma. J Vet Med Sci. 83:370-377 (2021)